MGB Urethane Bumper(later) Model “UB2”改良計画
Stage 2
「UB2のパワーアップ」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが「キャブレターの交換」という方も少なくないのではないだろうか。そこでまずこの点から話を始めることにしよう。
最初に言っておかなければならないことは、UB2のパワーアップを図るには「キャブレターを交換すれば済む、というものではない」ということである。
理由を述べよう。まず下の一覧表を見て欲しい。これはカタログ等から抽出したMGBのパワー・スペックの一覧である。
Mk.1 UK |
Mk.2 US |
Mk.2 UK |
Mk.2 US |
LG UK |
LG US |
|
最高出力 ps/rpm |
94/5500 |
98/5400 |
95/5400 |
92/5400 |
95/5400 |
92/5400 |
最大トルクkgm/rpm |
14.6/3500 |
15.2/3000 |
15.2/3000 |
15.2/3000 |
13.8/3000 |
15.2/3000 |
圧縮比 |
8.8 |
8.8 |
8.8 |
8.8 |
8.8 |
8.8 |
キャブレター形式 |
SU
HS4×2 |
SU
HS4×2 |
SU
HS4×2 |
SU
HS4×2 |
SU
HS4×2 |
SU
HS4×2 |
車重 kg |
924.9 |
921.6 |
871.7 |
1007.9 |
973 |
1046.5 |
BM UK |
BM US |
UB1 UK |
UB1 US |
UB2 UK |
UB2 JPN |
|
最高出力 ps/rpm |
95/5400 |
78.5/5350 |
84/5250 |
62.9/5000 |
97/5500 |
62/4600 |
最大トルクkgm/rpm |
15.2/3000 |
13.0/3000 |
14.1/2500 |
12.0/2500 |
UNKNOWN |
12.1/2500 |
圧縮比 |
8.8 |
8.0 |
9.0 |
8.1 |
UNKNOWN |
8.0 |
キャブレター形式 |
SU
HS4×2 |
SU HIF4×2 |
SU HIF4×2 |
ZENITH×1 |
SU HIF4×2 |
ZENITH×1 |
車重 kg |
UNKNOWN |
871.7 |
1039 |
1062.4 |
UNKNOWN |
1055 |
この表からでも実に多くの事が分かる。何より驚かされるのが、その車重のバラバラなことである。メッキバンパーと呼ばれる時期でさえ、下は872kgから、上は1008kgまで、実にその範囲は130kgにもなる。これは計測時における冷却水やオイル、スペア・タイヤの有無などによる差異が大きいと思われる。
しかしここで語りたいことは、この点ではない。注意していただきたいのは、圧縮比とキャブレター形式の項目である。特にブラックメッシュグリル・モデルの対米仕様は、圧縮比がUB2日本仕様と同じ8.0のままで、ツイン・キャブ化されている。この場合エンジン出力は78.5馬力に過ぎず、UB2日本仕様と比較して16馬力強の向上に留まっている。
まあそれでもパワーアップはするのだから良しとするにしても、実はUB2のキャブレター交換というのは(エンジン内部に手を付けなくても)思いもかけない大手術が待っているのだ。
しかしいきなり吸排気系に手を付ける前に、今のままで出来る事はある。カタログ・スペックですら62馬力とターボ付きの軽自動車にも及ばない出力しかないのに、それが正しくセッティングやメインテナンスを受けていなければさらに悲惨な結果を招いているのは疑いがない。
まず最初にすべきことは、現在のあなたのエンジンのコンディションを整えることだ。最も簡単なのは、エアクリーナーを交換して吸気効率を上げることである。オーナーズ・マニュアルではエアクリーナーの指定交換間隔は20000キロとされている。
次にチェックするのは点火系である。特にディストリビューターとスパーク・プラグを繋ぐハイテンション・コードは経時劣化を起こしやすい部品であり、知らないうちに点火エネルギィの低下を招いている恐れがある。
また点火コイルも悪名高き「ぬるい英国ビールの創造者」ルーカス製であり、これを変えるだけでも体感的にエンジンの元気が良くなる。
次は点火タイミングである。これを調整する事自体は難しくはない。ディストリビューター付け根にあるクランプのボルトを緩めて、全体を左右に回転させ、再度クランプを締めるだけである。因みにデスビを上から見て、時計回りに回すと点火時期が進み、逆だと遅れる。念のために書くと、点火時期はピストンが往復運動を行うどのタイミングでスパークするかをクランクの角度で表し、その基準となるのはピストンが最も上昇する「上死点(Top Dead Centre-TDC)」である。
通常はスパークしてから混合気に着火し、最大圧力に達するまではタイム・ラグがあるから、点火時期はTDCの直前(Before Top Dead Centre−BTDC)になる。このタイム・ラグが問題で、点火が早すぎれば爆圧はピストンの動きを押さえつけることになるし、遅すぎれば混合気の圧縮力は頂点を超えて爆圧は気が抜けたものになってしまう。
UB2の点火時期は、1500rpm時に10°BTDCというのが指定である。しかしこの値にセットするためには、ストロボ式のタイミング・ライトが必要である。
次にチェックするのはキャブレターである。
標準のゼニス・ストロンバーグ175CD5T型キャブレターは、SUと同じく「可変ベンチュリー型」に分類される。これはエンジンの負荷に応じて自動的に空気の流路の大きさを調整し、常に適切な量のガソリンをシリンダーに供給する、というのがセールスポイントとなっている。
右図はHS型SUキャブレターの断面図だが、ゼニスもSUもキャブレターの頂部はドーム状になっていて、そこにネジ式のキャップが付いている。そのドーム状の部分がエンジンの回転状況に合わせて内部にあるピストンを上下させるための負圧を発生させる「サクション・チャンバー」である(図中茶色で断面を示している)。
右図ではエンジンは右側に位置し、空気は左から右に流れる。吸引されたフレッシュ・エア(水色で示している)はピストンとブリッジによって狭められたベンチュリー部で加速し、負圧となることによってブリッジに組み込まれているジェット部からガソリン(赤で示している)が吸い出され、霧状になってフレッシュ・エアと混ざり合うことで混合気を生み出す。
その混合気は同時にサクション・チャンバー内の空気も吸い出し、ためにサクション・チャンバー内は負圧となってピストン(黄色で断面を示している)を上昇させる。それはピストンの自重+スプリングの反発力と負圧が釣り合うところまでである。
つまりベンチュリー部の間隔(=ガソリンを吸い出す負圧の強さ)は、吸気圧(=エンジンの回転数)に応じて自動的に変化する訳で、これが「可変ベンチュリー」キャブレターと言われる所以である。
別項のTechnical Tipsでも触れているが、キャブレター頂部のキャップの中には、エンジン・オイルか専用のオイルを入れる(緑で示している)。これにより急激かつ大きくスロットルを開けた時のサクション・ピストンの動きを抑制し、一時的に混合気を濃くすると共にミクスチュアを適正値に保つのである。
これは可変ベンチュリー・キャブレターでは極めて重要なポイントで、この形式のキャブレターをお使いの方は、月に1度は確認することを義務と心得ていただきたい。
さもなければまさにショック・アブソーバーの抜けた車のごとく、加速時にピストン位置が安定せず(=混合気が適切なミクスチュアにならず)、エンジンがギクシャクとした挙動を示すこととなるからだ。
ゼニス・ストロンバーグ・キャブレターはSUの改良型で、サクション・チャンバー内の負圧を保つためのピストンのフランジが、ゴム製のダイヤフラムに変えられている。またチョークはオート・チョーク機構が組み込まれている。
しかしこのオート・チョークがしばしば故障のタネとなること、また混合比の調整がピストンに付けられたニードルの長さ調整でしかできないこと、などの欠点から、他のキャブレターに交換されることが多い。
通常UB2のキャブレター交換を行う時にポピュラーなのは、オリジナルで使われていたSUか、スポーツ・キャブの代名詞であったウェーバーと相場が決まっている。
カタログ仕様でMGBに用いられたことがあるのはもちろんSUキャブレターで、中でもHS(Horizontal-Separate:水平型/フロート・チャンバー分離式)かHIF(Horizontal-Integral-Float:水平型/フロート・チャンバー内蔵式)の、ポート口径1.5インチの物で、「HS4」「HIF4」と称する。通常UB2で交換用として用いられるSUキャブはこのどちらかか、1サイズ大きい口径1.75インチの「6」という記号が付けられたものである。
HSとHIFの違いは左の写真で分かる通り、キャブレター本体の脇にショット・グラス大のフロート・チャンバーがあるのがHS、それがなくキャブレター本体の底が平らになっているのがHIFである。
機能的な差は、HSがキャブレターの底から下に突き出しているアジャスト・スクリューを回すことでジェットを上下させ、これにより混合比の調整が可能であるのに対し、HIFではキャブ本体に横からマイナス・ドライバーを差し込んで回すことでこれを行う点が大きなポイントだろう。
またこれも混合比に大きく影響するフロート内ガソリン油面の高さ調整だが、HSが独立したフロート・チャンバー内でできるのに対し、HIFはキャブの下を開けて行う必要がある。
無論調整が容易なのはHSの方で、混合比の調整など慣れれば信号待ちの間にさえ行える位である。
ウェーバー・キャブレターを用いるのだったら40DCOE型か、更に口径の大きな45DCOE型である。
ウェーバー・キャブレターの場合注意が必要なのは、Bタイプ・エンジンは各シリンダーへの吸気ポートが2つのシリンダーで1つのポートを共有する「サイアミーズ」式になっている点である。このためシリンダー・ヘッドに付けられた吸気ポートは2つしかなく、一つのキャブレターで二つの空気流路を持つツイン・バレル構造のウェーバー・キャブの場合、キャブレター1基でこの二つの吸気ポートは埋まってしまう。
通常はキャブレターの出口側からS字を描いて吸気ポートを結ぶ専用のインテイク・マニーフォールドと共に用いる事になるのだが、このS字湾曲による吸気効率の低下を嫌って、片側のバレルを殺したウェーバー・キャブレターを2基用いる代わりに流路をストレートにする「スプリット・ウェーバー」という手法も(特にサーキット・ユースでは)存在する。
またウェーバー・キャブにはSUにはない「加速ポンプ」が組み込まれている事もあり、40DCOEでもSU−HS4ツインよりガソリンの供給量は増えるのだが、ここで注意していただきたいのは単にウェーバーを装着しただけでは「供給されるガソリンが使い切れない」という点である。馬力に変えられることのなかったガソリンは当然無駄に大気中に放出される訳で、これは言うまでもなく燃費の悪化に繋がるし、加速ポンプはプラグのカブりを招くこともある。
まあガソリンは気化する過程でシリンダー内の熱を奪うからオーヴァ・ヒート対策にはなる(過給エンジンも、実はこの手を使っている)とは言えるが、そのために行うにはあまりに無駄な方法であることは言うまでもない。
本来ウェーバーやHS6などの大口径キャブレターを有効に用いるには、圧縮比のアップや点火系の強化など、全般的なエンジンのチューニングがあってこそなのである。
直接的なチューニング・メニューとは無関係なのだが、MGBのスロットル・ケーブルは何故か切れやすいようである。
その耐久性は筆者の経験から言えば、毎週末のみ乗っているような使い方で2〜3年というところだ。兆候と言えばスロットル・ペダルの動きに渋さが加わることくらいなのだが、これはある日突然渋くなるという性質のものではないだけに感知しにくい。
そうなると自衛策と言えば、常にスペアのスロットル・ワイヤをラゲッジ・ルームに忍ばせておくくらいである。逆に言えばスペアさえ積んであれば、例え切れても交換にそう時間を要するわけではない。
Bタイプ・エンジンには、もう一つの問題がある。
標準のゼニス・ストロンバーグからSUへ交換しようというのであれば、普通はツイン・キャブにしようと考えるだろう。当然そのためにはツイン・キャブ用のインテイク・マニーフォールドが必要となる。ところがUB2のインテイク・マニーフォールドは、触媒の関係からかエキゾースト・マニーフォールドと一体で鋳造されている。インテイク・マニーフォールドを交換するなら、必然的にエキゾースト・マニーフォールドも交換する必要がある。となれば、その後ろのマフラーも交換することになるだろう。
結論としては、UB2は吸排気系の改良を同時に行う必要があるのだ。これには当然少なからぬ出費を強要されることとなる。
MGB用のエクゾースト・マニーフォールド/マフラーは英国車用の部品を扱っているショップではほとんどと言っていいくらいあるだろうから、入手するのにはさほど苦労はないだろう。もちろん少しでも安価に入手したいのなら、英国から直接買うという手段もある。まして今はインターネットの時代である。(まあ筆者自身はものぐさなもので、手近に入手可能な日本で買ってしまうが)。
もちろんエキゾースト・マニーフォールドを交換したなら触媒コンバーターも撤去することになるから、車検をどうするのかという問題を抱え込むことは覚悟していただきたい。
かくしてあなたのUB2は吸排気系が交換された。こうなったら、燃焼されきれなかった混合気を燃やすためのエアポンプを付けていても意味がないのでこれも撤去することになる。
その際に注意すべきなのは、エアポンプを駆動するためファン・ベルトがかけられていたプーリー(ウォーター・ポンプ駆動用プーリーと重ねられている)である。本来的には当然不要な代物なのだが、実はこれはウォーター・ポンプ用プーリーと合わさってファン・ベルトの張力に対抗している。そこでエアポンプ用プーリーのみを撤去すると、プーリーの張力はすべてウォーター・ポンプ用プーリーが受け止めることとなり、これがこのプーリーの破断を招く恐れがある。
そのためエアポンプを撤去しても、プーリーだけはそのまま残した方が良いだろう。
さてこうして一通りの改良が済んだら、あなたのUB2はカタログ・スペック78.5馬力仕様となった訳である。
これでもなお不満となれば、いよいよエンジン内部に手を付けざるを得ない。冒頭書いたように、圧縮比を9.0にすれば95馬力になるはずだし、排気量アップという手段や、ヘッドをクロスフロー・タイプに交換すると言う方法もある。
しかし排気量アップの場合、Bタイプ・エンジンは既にMGAの1600ccからMGB搭載にあたって(正確にはADO17搭載のためだが)1800ccにボア・アップされ、この際に両隣のシリンダーとの間のウォーター・ジャケットを共用する「サイアミーズ・タイプ」になっているから、実はMGB用Bタイプ・エンジンにはボア・アップの余地はさほど残されていないとも言われる。
究極の排気量アップとしてはローヴァV8へのコンバージョンという手段もあるとは言える。そうすれば100馬力オーバーはおろか、500馬力ですら手に入れられる話ではあるが、まあそこまでやるのは極端に過ぎるというものだろう。興味がおありな方は、別項の「Bee−3:”The MGB Tourer V8 Conversion Model”」を参照していただきたい。
またクロスフロー・ヘッドも吸排気ポートがシリンダー毎に独立していないので、劇的と言うほどの効果はないとも聞く。
総じて市販状態以上のチューニングをしようとすれば、その分の負荷は車体のどこかで確実に増加することを肝に銘じて欲しい。そして絶対出力の増大は、往々にして中低速トルクの減少と裏腹であり、街乗り用から遠ざかることにもなる。
しかしあれこれと資料を集めてチューニング・メニューを考え、一つ一つの効果を確認しながら自分がイメージする車に仕上げて行くというのは、これも一つの楽しみである。
そうした意味で、今ストック状態でUB2に乗っておられる方はこの上ない幸運に恵まれているとも言える。他人の手垢の付いていないまっさらの状態から作り上げて行けるのだから。
是非あなた自身で色々な方法を試して、更にMGBを楽しんでいただきたい。