MGB Urethane Bumper(later) Model “UB2”改良計画

 

Bee1夕暮れあなたの手元に、いよいよ念願のMGB UB2がやってきた。喜び勇んでドライバーズ・シートに座り、エンジンに火を入れて緑なす郊外に足を向けるあなた。

しかし甘い蜜月の期間が過ぎ、最初の興奮がすぎた頃、ふとこんな疑問が頭をよぎる。

「現代の車に比べれば性能が劣ることは承知していたが、こんなものなんだろうか?」

「所詮古い車は仕方ないか」

実はあなたは騙されているのだ。

何に?1970年代に世界を席巻した「セイフティ・ヒステリー」と「公害対策」のためにUB2に施された様々な改造に。

本来あなたの車は微細かつ適切な改良を与えるだけで、同じ車とは思われないほどのパフォーマンスを発揮できるのだ。

と言ってもそれは時速200キロを超える最高速でも、0−400m15秒台の加速でもない。いついかなる時でも現在あなたとあなたのMGBが置かれている状況を的確に伝え、例えあなたが不慣れで不適切な操作をしても、それによる望ましくない挙動をできるだけ緩和するという、教科書としての優れた資質である。これによりあなたは「スポーツ走行とはいかなるものなのか」を自然に学ぶことができるだろう。

しかし悲しいかな、ストックのままのUB2ではこの資質は背後に隠れたままである。ではどうすればそれを呼び起こすことができるのだろうか?

それが「MGBのチューン・アップ」である。

 

チューニングとは、その人の考え方/コンセプトなるものが如実に現れると言って良いだろう。サーキットを目指すのか、公道の王者を目指すのか。はたまた現状の不満点解消を求めるのか。その目的も手段も、オーナーたる人の考え方次第でその辿るべき道筋も辿り付く帰結も、千差万別である。

ここでは筆者自身がかつて所有した<Bee−1>に自ら施してきたチューニングを踏まえて、特にウレタンバンパー後期型(UB2)MGBを「現代の日常的スポーツカー」として遜色ないレベルにするための方策について述べよう。

 

Stage 1:

まず最初にすべきことは、エンジンのチューンでも、足回りの交換でもない。

運転中のドライバーと車との接点は何だろうか?言うまでもなくハンドルであり、ペダルであり、レバーである。あなたの意思はこれらを通じて車に伝えられ、車の状況はこれらを通じてあなたに伝えられる。

つまりあなたとMGBの意思を一体化するためには、これらの相互関係が適切かつ強固でなければならないということだ。その点でUB2において最も問題なのは左足のためのフットレストが存在しない、という点にある。

MGB図面(着色側面)これはMGBがFR形式の駆動方式の中で、エンジンという重量物を前後車軸の内側に配置するために前輪がエンジン中心よりも前に位置するという、「ロングノーズ・ショートデッキ」形態を取っていて、なおかつ日本におけるUB2の大半が左ハンドル車であるために起こっている事態である。

通常の左ハンドル車の場合ならばホイール・ハウスが丁度良いフットレスト代わりなのだが、前車軸が遥かかなたにあるMGBでは車室内にホイール・ハウスの張り出しが一切存在しないのだ。これが右ハンドル車(下の写真はMk.3ブラックメッシュ・グリル73年式日本仕様車<Bee2>)であればクラッチ部分をクリアするためのセンター・トンネルの膨らみに、左足を置くことができる部分(元はMk.1/2の頃のヘッドライト・ディマースイッチの名残)があるのだが。

 

さてフットレストがない結果として、何が起きているのか?

b2pedal(300)車がコーナーに差し掛かると必然的に横方向にGがかかり、あなたの体はコーナー外側に持って行かれそうになる。UB2のシートはこれを支えきれるだけの深いバケット形状ではないから、これに抵抗するのはあなたの仕事だ。

しかし足を踏ん張ろうにも左足は置場がないし、右足はスロットル・ペダルやブレーキ操作に忙殺されてそれどころではない。勢い腕で何とかする以外に方法はない訳だが、本来あなたの腕はステアリング・ホイールとシフト・レバーの操作という重要な役割を担っている。そこにあなたの体を支えるという余計な仕事まで背負い込むのだから、繊細な操作など望むべくもなくなることはご理解いただけるだろう。

フットレストの装着は、あなたの両腕からこの余計な仕事を解放し、本来の役割を果たせるようにするのと同時に車側からの情報を的確に察知できるようにするのだ。あなたは今までいかに腕に余計な力をかけていたのかを知って驚くだろう。

 

Bee-1フットレスト縮小 フットレストと言っても、要は左足をかけて踏ん張ることができれば何でも良い。幸いMGBにはボディ補強のための四角い強度メンバーが、フロアの左右端で前後に走っている。ここに市販のフットレストや鉄棒を曲げたものなどを、溶接やタッピング・ビスなどで取り付ければ出来上がりである。

 無論その位置決めの際には、左足がフットレストからクラッチ・ペダルへとスムーズに動くように決めなければならない。

 これであなたのUB2のコーナリング・スピードは、10Km/hは向上する。

 下の写真は筆者のUB2Bee1>の写真だが、スロットル・ペダルの形状がBee2のそれと異なっているのが分かるだろう。UB2のスロットル・ペダルはヒール・アンド・トゥがやりやすい形状になっているのだ。

 

 因みにロータス7系の車も足元のスペースが最小限であるために左足の置場には困るのだが、タイト・フィットなバケット・シートとフル・ハーネスのシート・ベルトによって、言わば強制的に車に体を縛り付けることで車体と身体の一体化を図っている。

 無論MGBでも同じ事は可能ではあるが、バケット・シートの装着はせっかくのリア・ラゲッジ・コンパートメントを極めて使いづらいものにするという副作用を伴うことには注意が必要である。

 

 フル・ハーネス式のシート・ベルトについては、UB2純正の3点ELR式シート・ベルトは単純な巻き出し速度感知式であるためにロックしやすく、拷問具よろしくコーナリング中にどんどん締まって行くという悪癖を持っているから、市販の4点式シート・ベルトなどに交換した方が良いアイテムではある。

ただしショルダー側の2本のベルトを車体側に留めるアンカー・ポイントは充分注意して取り付ける必要がある。

そもそも衝突時にはアンカー・ポイントにはトン単位の荷重がかかるから、本来的にはボディの強度メンバーに取り付ける必要がある。また取り付け位置によっては下ろした幌がベルトと干渉する恐れがあるから、この点も注意が必要である。

 

 ここからいよいよUB2の本格的な改良がスタートする。

 エンジン出力による動力性能の向上を狙うか、足回りの改良による運動性能の改善を図るか。それはあなたの選択である。

 しかし筆者の見解では、まず何を置いても運動性能にメスを入れることを優先すべきである。なぜならそれは「安全」に繋がることであり、さらに最初に述べた「MGBとの意思疎通」を改善する事だからである。

 極論すれば、エンジン出力が100馬力あってもそれが70%しか発揮できなければ、実質使っているのは70馬力に過ぎない。対してエンジン出力が80馬力しかなくても90%使うことができれば実質発揮する馬力は72馬力となって、20馬力の差は逆転してしまうのだ。

 直線路での加速や最高速を競うのならばいざ知らず、スポーツカーの本来のフィールドであるワインディングにおいて重要なのは「何馬力あるか」ではなく「何馬力使えるか」、言い換えるなら「いかにエンジンの出力を効率良く的確に駆使しえるか」である。

 そのために必要なのはサスペンションなど足回りであることは言うまでもない。

 

 さてUB2のサスペンションを見たときに、一つ面白いことに気付くだろう。UB2だけがRV8を除く全MGBシリーズの中で唯一前後にスタビライザーを装着している点である。

 これは北米の衝突安全規制に対応して(悪名高き)ウレタンバンパーが装着されたのに合わせて車高を3cm増加させられた事による劣化したロール剛性を改善するためである。

 しかしこれでUB1よりマシになったとは言え、やはりUB2のロール特性は誉められたものではない。特にステアリングの切り始めで、まるで膝を折ったかのような急激な初期ロールを起こすのがいただけない。足回りで真っ先に手を入れるべきはこの点である。

 方法は前後スプリングを硬くする、ショックアブソーバーを強化するなど、いくつか存在する。まあUB2は最期のMGBとは言えその生産終了からはすでに40年以上を経過しているのだから、当然ショックもスプリングもヘタりが出ていて不思議はない。しかし実はMGBに用いられているアームストロング社製レバー式ショックアブソーバーは、通常のテレスコピック式よりも耐久性が高いようである。

 だがこの問題を改善する最も簡単かつ安価で効果的な方法がある。要は車高が上がったのが問題であるならば、下げれば良いということだ。

 このためには市販のロアリング・キットを購入して組み込む必要がある。

 

ロアリングキット縮小 ロアリング・キットは5万円程度で、通常フロント・サスペンション用の短いコイル・スプリング、リアのディファレンシャルとリーフ・スプリングの間に入れるスペーサー、そしてデフとリーフを繋ぎ直すため延長されたUボルト(とセイフティ・ナット)から成っている。

 フロント・サスペンションはロアAアームを外し、コイル・スプリングを交換し、再度Aアームを止め直す必要があり、これにはスプリング・コンプレッサーなどの器具を要することがあるので普段修理を依頼しているショップなどに頼んだ方が無難であろう。

 しかしリアはガレージ・ジャッキとスタンド(俗に言う「ウマ」)さえあれば、難しい作業ではない。

 ボディをジャッキで持ち上げる→ボディにウマをかます→デフをジャッキで支えつつ、Uボルトのナットを外す→ジャッキを下げる

 

 これでデフとボディは分離するから、あとはスペーサーをかましてジャッキを上げ、新しいUボルトとセイフティ・ナットを使って再度固定するだけである。ただしセイフティ・ナットは緩み防止のためナイロン樹脂が潰れながら留まる構造になっているから、一度外すと再利用はできない。絶対にキットに入っている新しいセイフティ・ナットを用いなければならない。

 

 さてこれであなたのUB2は、MGB本来の車高に戻った。最初に気付くのは、車から降りる時だろう。ドアを開け、足を出すと妙に地面が近いことがすぐ分かる。

 走り出せばその差は劇的である。何よりも問題の急激な初期ロールが姿を消し、ボディの傾きがプログレッシヴになったことが分かるだろう。これによりコーナーでの車の挙動が遥かに分かりやすくなる。

 このロアリング・キットの装着という方法が好ましいのは、基本的にスプリングを硬くするわけではないため、乗り心地にはほとんど言って良いほど悪影響がないままに運動性能を改善できる点にある。

 

spaxfrontspaxrear さて前でも触れたが、MGBのサスペンション・チューニングで比較的広く行われているメニューが、テレスコピック・ショックアブソーバーへの交換である。特に英国製のSPAX社製のコンバージョンキットが有名だが、オランダのKONI社の物もある。

 SPAXは減衰力を調整できることが一つの「売り」にはなっているが、それはあくまでもショックアブソーバーの劣化を補償する程度に過ぎないとも言われる。

 まあリアに関しては前者も後者も大差なく、標準のレバー・ダンパーを撤去し、その取り付け穴とリーフのUボルトを利用してアダプターを取り付けて長さの合うショックアブソーバーを取り付ければ良い。

 しかしフロントは、少々事情が異なる。

 それと言うのも、ダブル・ウィッシュボーン形式に分類されるMGBのフロント・サスペンションのアッパー・ウィッシュボーン・アームは、アームストロング社製レバー式ショックアブソーバーの作動アームが兼ねているからである。

 そのためこれを残すか、代えるのかが一つの問題となるのである。

 

 SPAXの場合はレバー・ダンパー内部のオイルを抜いて殺す形でショックアブソーバーを追加するのだが、KONIの場合は上下のサスペンション・アームごと交換し、ショックアブソーバー本体はコイル・スプリングの中に位置する形となる。そのためこのキットは「ハンドリング・キット」と称されている。

 因みに1994年にMGBを元に生産されたRV8のフロント・サスペンションは、このKONIハンドリング・キットをベースにしているフシが見られる。もちろんサスペンション・クロスメンバーごとRV8用に交換するという荒業もありえるし、そうすることでフロント・ブレーキもRV8に使われている4ポッド・キャリパー付きのベンチレーティッド・ディスクの使用が可能になる。

 ただしRV8はその使用しているタイヤと、車の性格の違いからか、MGBとはサスペンション・ジオメトリーが異なっているので、ハンドリングが変化する恐れが高いことは指摘しておきたい。

 

 タイヤのチョイスを慎重に行い、限界挙動が分かりやすいものを選んで履かせれば、さらに良い。その際に注意すべきなのは、MGBはその設計年次の古さから言っても、最近のハイグリップ・タイヤや太すぎるサイズ、また極端にロープロファイルなものは選ぶべきではないということだ。

 MGBが生まれた当時はまだラディアル・タイヤ自体が一般的なものではなく、MGBにラディアル・タイヤがオプション装着できるようになったのは70年代に入ってからのことである。

 まあ今となってはバイアス・タイヤを探す方がよほど困難だろうからこの点は妥協するにしても、グリップの高すぎるタイヤはコーナリング時の負荷をすべてサスペンションとボディに負わせることになる。MGBはモノコック構造のオープン・ボディ車としては、その生まれた設計年次を考えれば十分高い剛性を持っているとは言え、これはボディ/サスペンションに与える負荷としては高すぎる。

 また太いサイズやロープロファイルのタイヤは必然的に重くなり、サスペンションの動きにとっては妨げにもなる。

 見栄えと性能のバランスから言えば、筆者としては175/70−14サイズのラディアルがMGBに履かせうる限界の太さだろうと考える。メイクとしてはスポーツ・タイヤとして名高いピレリP6(初代)が、ヤレはいささか早い恨みはあったものの、その限界特性の穏やかさからMGBには良く合っていたと思う。

 しかしP6はすでに2代目にモデル・チェンジしてその性格を変えてしまったようだし、何より現在のP6にはこのサイズは存在しないようである。と言うよりも今のご時世では70プロファイルのタイヤ自体が希少品となってしまっているのが頭の痛いところである。

 しかし幸いなことに外国製のタイヤにはまだ比較的残っているようで、フランスのミシュランにはこのサイズが用意されている。

 (2020年7月補遺:現在ではピレリが初代P6の復刻版の生産/販売を行っており、175/70HR14サイズも存在している)

 

 一つ注意いただきたいのは、ワイヤ・ホイールを使用している車である。

 別項の「TECHNICAL TIPS」にも書いた通り、ワイヤ・ホイールの種類によってはチューブレス・タイヤが使用できない。今時チューブ入りのタイヤなぞバイアス・タイヤを探す以上に困難だから、別にチューブを手に入れて使わなければならない。

 筆者としてはそれだけの手間をかけてまで、あえてワイヤ・ホイールにこだわる必要があるのか疑問なしとはしないのだが、これはまあオーナーの好みというものだろう。

 

 さてこうしてあなたのMGBは、峠が楽しいスポーツカーに生まれ変わった。

 その嬉しさにワインディングを頻繁に駆け巡るようになったあなたを襲うのが、フロント・サスペンション・ロアアームのラバー・ブッシュの急激な劣化である。

 MGBのフロント・サスペンション・ロアアームの軸部に取り付けられたラバー・ブッシュはラバーだけで出来ており、各々2分割のものを組み合わせて用いるようになっている。

 コーナリング・スピードが上がったということはサスペンションにかかるストレスも確実に増加しているということで、その被害を真っ先に受けるのがこの部分と言って良い。

ブッシュ縮小 筆者も前述の改良を施したUB2(Bee1)でほとんど毎週のようにホームコースとしていたワインディングに通っていたところ、ロアリング・キット装着に合わせて新品に交換したはずのこのブッシュが、わずか4ヵ月後には千切れかけていたという経験を持っている。

 こうなるとロア・アーム自体にガタが出て、高速走行時のステアリング・シミーや、さらにひどくなるとブレーキング時の過大なコンプライアンス・ステアによってハンドルを取られるといった現象に遭遇することになる。

 これに対する対策だが、ナイロン樹脂製の強化ブッシュや、MGB/GT V8に用いられていたスチール・スリーブ入りの一体型ブッシュをロア・アームに圧入するという方法を取るしかないだろう。しかしオリジナルのブッシュがいずれは経時劣化によって交換を余儀なくされる(または、すでにされている)ことを考えれば、耐久性の高いブッシュに交換するというのは極めて理にかなった改良であると言える。

 これによる副次的効果としてはブッシュが固くなることによるステアリング・レスポンスの向上が期待出来るが、まあそれほど顕著なものではない。

 

 さてこれであなたのMGBは本当に街中でもワインディングでも楽しむことの出来るスポーツカーとなった。何よりも穏やかな限界性能とそれを超えた時の制御の容易さは、後輪のドリフト・コントロールさえ試してみる気にさせてくれるかも知れない。

 まあ何事によらず過信は禁物で、さもないと筆者のように山中でMGBを散華させることにもなりかねないのだが。

 

Bee1クラッシュBee1クラッシュ2

 

 

 ここまで来れば、UB2のエンジン・パワーに不満を感じても無理からぬ事と言えるかもしれない。何しろ完全なストック状態では、UB2(日本仕様)のエンジン最高出力はターボ付きの軽自動車にも及ばぬ62馬力しかないのだから。

 さあそれでは次にその動力性能にメスを入れることにしよう。

 

Stage2

contents