<The ultimate MGB>part8.The Missing Link
1976年になって、MGBはGT
V8の退場と入れ替わるように生涯最大級の規模のマイナー・チェンジを受ける。外観こそ前年までのウレタンバンパー・モデルとの差違は認められなかったものの、実はその中身は大きく改良されていたのである。
特にエンジン・ベイの中身においては前進したラジエーターに2基の電動冷却ファンが付けられ、注意深く観察すれば左右のインナー・ホイールハウスの形状も変更を受けていることが分かる。
フロント・クロスメンバーを始めとするサスペンションの改造によってウレタンバンパー装着と機を同じくして3p高められた足回りには、MGBシリーズとして初めてリアにもスタビライザーが与えられ、フロントのそれも径をアップされて重心高の上昇により低下したコーナリング性能を幾分かでも補おうとされた。
実はこれら77年モデルに施された改造の多くはMGB/GT
V8において導入されたものだった。逆にエンジン以外でMGB/GT V8から4気筒シリーズにスピン・オフしなかったアイテムは、アルミホイールとフロント・ディスクブレーキ程度でしかないとすら言える。
一方で総販売台数はGTの後塵を拝していたとは言え、英国国内でもMGBトゥアラーにはMGBトゥアラーのファンが根強く存在していた。彼らの中にはローヴァV8エンジンがGTボディにしか与えられなかったことに対して不満を抱いている者も少なくなかったのである。
そうしたニーズを捉えて、トゥアラー・ボディにローヴァV8エンジンを搭載するというビジネスが成立した。しかも今回はMGB最終型のボディとMGB/GT
V8の部品を使えば、ケン・コステロが同じ事を行った時よりも遥かに容易に実行可能だった。
かくして英国では個人や、「V8 Conversion
Centre」を始めとする多くのショップの手によってMGBのローヴァV8エンジンへの換装モデルが次々に誕生していったのである。それどころか英国においては「HOW TO GIVE YOUR MGB V8 POWER」なる、V8コンバージョンの手引書すら発売されているほどである。
ユーノス・ロードスターに触発されたローヴァ首脳陣にプレゼンテーションされて大きな印象を与え、MG復活とRV8誕生のそもそもの原動力となったのも、この本の表紙も飾っているロジャー・パーカー氏所有のMGBトゥアラーV8コンバージョン・モデルの1台だったのである。
そうした意味からも、MGBトゥアラーV8コンバージョン・モデルは、MGB/GT V8とRV8との間を繋ぐ「ミッシング・リンク(失われた環)」というべき車種であると言える。
当然のことであるがV8コンバージョン・モデルは1台1台のワン・オフ(単品製作)である。そのため仕様も仕上がりもバラバラである。
エンジンにしてもMGB/GT V8用をそのまま搭載したものから、他車からスワップしてきたものなど様々な調達方法がある。ローヴァV8のエンジン・スペック自体、RV8用3900ccEFI190ps仕様はおろか究極的にはTVRが自社のグリフィス用に独自にチューンした5000cc370ps仕様や、それをさらにチューンした500ps仕様というものすら理論的には搭載可能なのである。
トランスミッションも同じことが言えるが、ローヴァSD1のスポーティ・ヴァージョンであるヴィテスが用いたLT77型5速マニュアルシフト・ユニットを用いることによって、MGB/GT
V8の弱点の一つを解消することも可能である。
因みにこのLT77ユニットは、1−2速の間の動きが直線ではないとかシフト・フィールが全般的に硬いなどという欠点があるものの、RV8初期型にも用いられている。またこれもSD1用のATユニットを用いることで、V8+ATという快適仕様に仕立てることすら可能である。
ボディも前述の通りウレタンバンパー後期型をベースとするものが主流ではあるがそれ以前のモデルに改造を施してコンバージョンしたものがないわけではなく、またヘリテイジ・ボディを使って各部の強化を施して仕上げるという理想的構成を取っているものもある。最近では英国でそれ用の構成を持ったヘリテイジ・ボディ自身が販売されていることからも、こうしたニーズは確実に存在していることが伺える。
また必ずしも「コンバージョン=トゥアラー」ではなく、GTボディでコンバージョン処置を受けたものも(数はわずかだが)存在しているようである。
極端なケースだとRV8用とMGB用双方のパーツを組み合わせることで「RV8/GT」(これをコンバージョンと呼ぶかどうかは異論もあろうが)というクルマを作り上げたショップもあるようである。
ことほどさようにコステロの最初のプロトから数えると、MGBにおけるV8コンバージョンの歴史は 30年近くにも及ぶ。
その中でもMG専門誌などで見かけることの多い「標準仕様」というものをあえて選び出すと、次のようになる。
ベース・ボディ |
:MGBトゥアラー最終型英国仕様 |
エンジン |
:ローヴァSD1用3528cc圧縮比9.35仕様 |
キャブレター |
:ホーリィ4バレル4160−8007型 |
インテイク・マニーフォールド |
:オッフェンハウザー・デュアルポート |
トランスミッション |
:ローヴァLT77型ユニット |
これにMGB/GT V8の鋳造エキゾースト・マニーフォールドを装着した状態でのエンジン出力は、シャーシィ・ダイナモによる計測(駆動輪出力)で
最高出力 |
:165ps/5190rpm |
最大トルク |
:26.3kgm/1910rpm |
という実測データが存在する。
通常のカタログ記載のエンジン出力データはエンジン+補器装着状態での出力軸計測値であり、駆動輪計測では当然駆動系のロスによるハンディキャップを負っていることは留意されたい。
なおこの数値は鋼管製エキゾースト・マニーフォールドやヴィテス用ピストンによる圧縮比のアップ(9.75)などのライトチューンで200ps弱まで強化することは容易である。
上記リスト内にあるキャブレターとインテイク・マニーフォールドに関しては説明が必要だろう。
MGBのボディにローヴァV8を搭載するにあたり、昔から一番苦労するのが吸気系だった。元々直列エンジン向きのSUキャブレターは背が高く、それをVバンクの上に設置したのではボンネットを突き破ること必定である(コステロV8がこれだった)。
またインテイク・マニーフォールドの上に付けるMGB/GT
V8用に作られたSUキャブレター用プレナム・チャンバーは長く欠品で入手困難な状況が続き、またMGB/GT V8独特のキャブレター・レイアウトではミクスチュアの調整が極めて困難という欠点もあった。
これに対して昔からV型エンジンが多かったアメリカでは、これに適したダウン・ドラフト構造のキャブレターもまた多かった。カーター、ロチェスター、そしてホーリィなどというところが有名であるが、どれも極端に背が低く薄いことが特徴である。
特にホーリィはシェルビー・コブラ427にも用いられていることでも有名で、2バレル/3バレル/4バレルの3種類があり、各々で排気量に応じた数種類のキャブレター・サイズが用意されている。
3500cc仕様のローヴァV8エンジンに多く用いられるのは4バレル・モデルであるが、サイズはもっとも小さい390cfm(Cubic Feet per Minute:毎分空気流量)仕様を用いる。
ホーリィ4バレルは低中速用プライマリィと中高速用セカンダリィの2ステージ構成で、各々専用のバタフライ・バルブを備えた独立のベンチュリィとなっている。4バレルというのはその各々が2つずつ付いているという意味なのである。
スロットル・ワイヤは加速ポンプを備えたプライマリィ側のバタフライを駆動する。セカンダリィのバタフライは機械的には結合されておらず、プライマリィの吸気圧に連動して作動を開始する仕組みである。このためエンジン排気量に対して大きすぎるキャブレターを装着してしまうと、セカンダリィが作動するのに必要な吸気圧が発生しきれないなどというトラブルが起こりうる。
蛇足だがこれは特にホーリィに限ったことではなく、キャブレターにおいては「過ぎたるは及ばざるがごとし」というのは概ね真理である。
このキャブレターに組み合わせるインテイク・マニーフォールドもアメリカ製である。主に用いられるのはオッフェンハウザー製で、プライマリィ/セカンダリィの2つのベンチュリィからの混合気を効率よく合わせて各シリンダーに供給するデュアル・ポートが使われることが多いようである。
通常はこれらに薄い円盤型のエアクリーナーを組み合わせることで、MGBのボンネットをそのまま使うことが出来る。しかし3500ccV8エンジンは大量にフレッシュ・エアを必要とするため、周辺部から吸気する形式のエアクリーナーの直径はかなりのものになる。
結果としてエンジン・フードを開けて最初に目に飛び込んでくるのはホイール・キャップと見まがうようなメッキの巨大なエアクリーナーということになるのである。
これらキャブレター以外にもMGB
V8コンバージョンに用いることの出来る吸気システムとしてはローヴァSD1ヴァンデン・プラ対米仕様に用いられたホット・ワイヤ式EFIがある。
RV8に先立ってローヴァ首脳陣にプレゼンテーションされたロジャー・パーカーのクルマに装着されていたのもこれであるが、始動性の改善などに目立った効果はあるだろうが動力性能的にはホーリィには劣るようである。ただしRV8用とはことなりエアサージ・タンクが薄いため、ボンネットとの干渉はない。
またEFIの場合は燃料ポンプもさらなる強化が必要であり、またコンピューターのトラブルなどという火種を内包することになるのは覚悟がいるだろう。
メカニズム関係で最も個体差が大きいのはディファレンシャル・ギアの選択だろう。大雑把に言えば、V8コンバージョン・モデルにおけるデフの選択肢は3つある。
一つが4気筒版MGBの物をそのまま用いる方法。もう一つがファクトリィ版のGT V8と同じくMGCの物を用いる方法。そして最後が1992年に登場したRV8用のトルセン式LSDを搭載する方法である。
ノーマルMGBのデフを用いた場合、ローヴァV8のパフォーマンスに対して絶対的なギア比が低いために、加速力は大幅に向上するものの高速巡航時にはエンジンの性能を生かしきれない。またBタイプ・エンジンに対する大幅なトルク増大がデフの耐久性に及ぼす影響は軽視できないものがある。
この点では実はMGC用デフも大差はなく、MGB/GT V8の弱点がこのデフとプロペラ・シャフトであることは前述の通りである。
RV8用トルセンLSDはその点では最も安心できる選択であるものの、価格が非常に高価であることとリア・タイヤのトレッドがわずかに広がるという点は指摘しておかなければならない。
こうして生み出されたMGB V8コンバージョン・モデルは、MG専門誌などの売買欄では必ず数台発見することができる。
その価格は£10000程度からで、「ヘリテイジ・シェル使用」などと書かれていると£15000以上を付けていることも珍しくない。
日本においては15年ほど前に東京都内の某ショップの注文によって「V8 Conversion Centre」で作られた1台が並行輸入された記録があり、さらにGTボディのコンバージョン・モデルがもう1台存在する事が判明している。GT
V8を含むMGB V8は2008年8月現在メッキバンパーのGTが6台、ウレタンバンパーのGTが1台、そしてコンバージョンのトゥアラー/GTが各1台の合計9台が確認されているのみである。