<MG LE50:another“REBORN MGB”>
MGB誕生から50周年を迎えた2012年、英国のあるプライベート・ショップが1台のクルマを送り出した。
そのショップの名は「フロントライン・ディベロップメンツ」。MGB/スプリジェット/トライアンフなどの60年代英国ライトウェイト・スポーツカーのチューニング・パーツの製造販売を主たる業務として1992年にアビンドン・オン・テームズで(!)設立された店である。
注目すべきはこの店はケン・コステロ(そう、「あの」MGB/GT V8の、そもそもの生みの親である!)が続けていたMGBのチューニング・ショップと2001年に合併し、コステロ氏はこのフロントライン・ディベロップメンツ社の一員となっている点である。
それもあってか、フロントライン・ディベロップメンツ社がMGB50周年に向けて送り出したのがMGB/GTを基にしてエンジンを始めとする各部にアップデート・パーツを使って作り上げた「MG LE50」(「Limited Edition 50」の意らしい)である。
これはフロントライン・ディベロップメンツ社の公式写真であり彼等のデモカーの写真なのだが、これだけを見ればただのMGB/GT Mk.1である。強いて指摘できる点があるとすれば前部オーヴァ・ライダーがないのと、センターロック・ホイールが普段見ない形状なのと、内装のコンソール・ボックスが大きく変更されている程度だろう。
しかしその中身はと言うと、実はボディは強化ヘリテイジ・シェルであるなど、オリジナルのMGBと同一形状パーツであっても全てが再生産で構成されている。それどころかエンジン/ミッションは何あろうマツダMX5(NC)用を基に215馬力/24.2smまでチューンアップされた物が搭載されており、これに合わせてフロント・ブレーキはフロントライン・ディベロップメンツ社特製の4ポッド・ベンチレーティッド・ディスクブレーキに換装され、フロント・サスペンションは形式こそ同じダブル・ウィッシュボーンであるもののアーム類はアルミ製で作り変えられ、ショック・アブソーバーがコイル・オーバー型のテレスコピック・タイプとされているのは言うまでもない。またリア・サスペンションは5リンク式へと大幅に変更されている。リンク式リア・サスペンションは、実に50年前の試作段階で試みられたが採用は破棄されたものである。
因みにこのNCロードスター用マツダMZR2000ccエンジンは軽量をもってならすローヴァV8エンジンよりも60sも軽い84sと言われ、それもあってかアルカンターラ製ヘッドライニングや、本来八角形のラジオ・スピーカーがあるべき所に設置された空調吹出口に見られるような内装のアップ・グレード化にも関わらず車重はオリジナル同等(むしろ軽い?)940sと言われているので、パワー・ウェイト・レシオは4.4s/psという値になる(因みにメーター類はスミス社によってオリジナルの意匠を維持しつつ、搭載されたエンジンと発揮しうるパフォ−マンスに合わせた目盛に変えられている)。
フロントライン・ディベロップメンツ社はこのクルマのパフォーマンスについて最高速度256q/h/0−96q/h加速約5.1秒としており、英国「AUTOCAR」誌では燃費を17.0q/l(!)としている。
エンジンについてローヴァゆかりのKシリーズ等ではなく日本製とした事についてフロントライン・ディベロップメンツ社では「現代のクルマとして求められる環境性能や、将来のパーツ供給性も考慮しての事である」としている。
しかしこのクルマ、実はそこまでやっていても「新車」ではない。何故ならこの50台限定のプロジェクトは、50台の既存のMGBのシャーシィ・ナンバーを移し替えたものとして実施される。つまりこのクルマ、英国での登録上はあくまで「部品交換された中古車」なのである!
問題があるとすればこの中古車を買うには52700ポンド(2012年8月時為替レート換算で、647万円!)、オプション・フル装備だと770万円に達する価格だろう。程度の良い(本物の)中古車のMGBでも3台は優に買える値段である。因みにエンジンを供給するマツダMX5は、最も高価なRHTモデルでも英国で23600ポンドで買える。
英国「AUTOCAR」誌などでの試乗記を読む限りでは、オプション扱いのパワー・ステアリングが軽すぎる事に対する指摘はあるものの弱アンダーステアの操縦性で全般的には好評価ではあるのだが、このクルマをどう判断したものだろう。
形はオリジナルと大きく異なるもののメカニズムはオリジナルの延長線上に位置していると言って良かったRV8に対し、このLE50(正式名称に「MGB」の名は付かないようだ)は真逆でオリジナルの姿形をしているもののメカニズムにオリジナルを踏襲している部分は極めて乏しい。
まあ一種のレプリカに近い、と考えるのが最も妥当なのであろうか。だが少なくとも本国MGCC会報「SAFETY-FAST」誌2012年3月号に掲載された記事を読む限り、デモ車に実際に試乗したオリジナルMGBの生みの親の一人であるドナルド(ドン)・ヘイター氏はこのクルマについて好感を得たようではある。
なおボディはボディ剛性の面からGTのみ(基本2シーターで、2+2はオプション)で、ボディカラーも3色しか用意されないとの事である。
さてこのクルマ、日本で目にする機会はあるのだろうか?
どなたか「800万円のMGB」、買います?
と、ここまで書いたのが2012年の事。その後フロントライン・ディベロップメンツ社はLE50のパフォーマンスを更に向上させたLE50プラスを加え、更に待望のトゥアラー・ベースの「アビンドン・エディション」をラインナップに加えた。
各々の動力性能は、フロントライン・ディベロップメンツ社のホ−ムページ上では以下のようになる。
<LE50>
<LE50プラス>
<アビンドン・エディション>
こうして見ると、LE50にはなかったボンネット・エア・スクープが特徴的なアビンドン・エディションはLE50よりも大幅に強化されたエンジンによる加速は圧倒的ではあるものの、最高速はGTボディの利には勝てないのか同値に留まっている(それでも260q/hという、MGBとしてはとてつもないものだが)。
英国のヒストリック・カー雑誌「オクタン」の日本版第9号でこのアビンドン・エディションのインプレッションの翻訳記事が掲載されている。興味のおありの方はバックナンバーを探してみられると良いだろう。
ともあれ当初52700ポンドだったはずのLE50は、現在ホームページ上では54900ポンド、プラスは57995ポンドで、アビンドン・エディションは驚くなかれ79900ポンドと表示されている。
2015年現在の為替相場は一気に円安となり、1ポンドは191.17円(6月)。これで換算すると、LE50は1050万円、LE50プラスは1109万円、そしてアビンドン・エディションは1527万円也という事になる。
因みに50台限定とされていたはずのLE50だが、「オクタン」誌のアビンドン・エディションの記事が書かれた時点(2014年12月)では売れた台数は32台とされている。